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【New Eden Headline】6・『セイリン大災害 ─ニューエデン史に残る究極の大災害』

「YC111年3月10日、8時43分。 ガレンテ、エッセンスリージョンのセイリンシステムより、『カサンドラ』恒星監視衛星ネットワークが8時40分に緊急停止したことにより、システムの交通管制に障害が発生中との報告がありました。 そのため、セイリンシステム交通管制はシステムへの進入を一時的に制限。 セイリンⅠにある観測施設の研究員は、通信機能に問題が発生しており、まもなく復旧するものと想定している、としていました。 同じ頃、アウターリングリージョン、3HQC-6システムでもORE調査隊との連絡が途絶したと言われていました。」
「ふむ。 監視衛星、カサンドラ…」
「最初はそのような楽観視からこの騒動は始まりました。 それから18分後。 9時1分、ルミネールの連邦管理局はセイリンⅠとのすべての通信が途絶したことを発表しました。 通信復旧の試みは継続中のものの、ガレンテ海軍の即応部隊の派遣や、CONCORDがガレンテ海軍に協力を申し出た、とのことです。 また、セイリンⅠをよく知る技術者によれば、セイリンⅠと連邦情報網を接続するFTL液体ルーターは通常、最も強固な設備の1つであり、地表から数キロ地下に埋設されている、とのことでした。」
「マーケットネットワークも含めた、あらゆる通信はFTL通信網を経由していますからな。」
「ですわね。 セイリンⅠは、ガレンテ国内の重金属生産の大部分を担うセイリンシステムの中でも最大の産出地であり、同システムの属するスルドコンステレーション全域の4分の1の鉱石産出量を占めてもいますわ。 セイリンⅠの人口は地下磁気鉄道で接続された4つの地下都市にそのほとんどが集中しており、当然、彼らは採掘作業従事者がほとんどですわ。 恒星からの距離がかなり近いセイリンⅠの昼側は凄まじい気温になるため、地下都市と地表を結ぶ出入り口は少なく、また、宇宙港へのアクセスや、軌道エレベータの運行もそう多くはありませんでした。 また、いくつかの採掘現場は地下100キロにも達しており、そのため、電力供給は地熱や核融合に頼っていたようです。」
「地下100キロとはまた物凄い深さですな… それほど良質な鉱石が取れたのでしょうな。」
「更に9時12分。 ガレンテの当時の大統領、フォーリタン大統領は、ガレンテとカルダリの国境線に沿って防衛艦隊を可及的速やかに展開する戦争準備の1つである、『トリップワイヤ』計画の発動を承認しました。 これは唐突、そして奇妙な形で連絡を絶ったセイリンⅠを受けてのものでしたが、連邦当局の『予防的措置』との声名があったにせよ、大艦隊が近接距離で行動するのは無謀で危険でしかない、と言われていました。 軍事評論家はセイリンⅠの通信途絶が攻撃の結果引き起こされたという可能性を否定できない、としていました。 液体ルーターは軌道爆撃や、特殊部隊による破壊工作の優先目標になることが多々あるからですわね。 カルダリ海軍もこれに応答し国境線に艦隊を展開したものの、防御態勢を取っていることが確認されていました。 9時20分、カルダリ連合の当時の指導者、タイバス・ヘス氏がフォーリタン大統領にメッセージを送信し、カルダリ連合はセイリンシステムやスルドコンステレーションで軍事行動を起こしていないことを確認しました。 国境地帯におけるフォーリタン大統領が取った攻撃的な姿勢は残念であるとしながらも、セイリンⅠに関する情報不足が原因であろうから、やむを得ないことだと理解している、とも。 カルダリ海軍は挑発されない限りは戦闘を開始しないものの、国土の防衛のための準備を整えるように命令を発しもした、とのことでした。 その上で、セイリンⅠの問題を解決するための支援や、問題再発を防ぐための技術的支援の提供も可能であるとしていました。」
「ふむ… そういえばまだ、この時はカルダリプライムの戦いから1年と経っていない頃ですものな。 軍事的緊張は避けたかった、ということでしょうな。」
「そういうことでしょうね、ミスター。 さて、9時36分、セイリンⅠの液体ルーターが復旧、セイリンシステムとの通信が回復しました。 通信機能は外部からの脅威に備えて緊急停止、その後に自動的に再起動した、とのことでした。 しかしながら、通信システムの緊急チャンネルはロードコア市、メタルシティ市、サザンクロス市、ヴァリモア市からの、惑星そのものからの脱出を求める救難要請で溢れかえっていました。 何が起きたのかや、どれくらいの規模なのか、ということは一切不明ながらも、連邦海軍とCONCORDがセイリンⅠに向けて緊急出撃したことが確認されていました。 ガレンテ連邦の緊急サービスが受信した最初のメッセージはセイリンⅠの昼側、ロードコア市近郊からの『誰でもいいから助けてくれ』というものでした。 その時点で数千もの救難要請が受信されていましたが、そのうちの1つは地下の貨物積み込みベイから発信されており、ベイは爆発で崩落、大勢の労働者が瓦礫の下に閉じ込められている、と。 初期の報告によると、被災者の大多数は致死的な放射線に曝されており、死因は重度の熱傷と放射線中毒がほとんどであり、また放射性物質も確認された、とのことでした。 セイリンⅠの昼側の大部分は依然として沈黙しており、救難要請はロードコア市、そして夜側のサザンクロス市から発せられている、とも。 また、昼側からの通信は地下回線を経由して夜側から発信されていたようです。」
「熱傷に…放射線中毒? まるで…」
「はい。 とある軍事評論家はセイリンⅠが攻撃を受けた可能性に言及。 寄せられた被害報告は大規模核攻撃の結果に酷似していると指摘しました。」
「まさか何者かが核攻撃を?」
「…9時44分。 ガレンテ連邦軍当局はセイリンⅠが核攻撃を受けた可能性について報告を受けました。 地上に設置されていた唯一の早期警戒システムが射出した、核爆発にも耐えうるよう設計された緊急プローブが軌道上へと離脱し、レーダーから消えるまで周辺の情報収集施設に向けて、核攻撃が発生したことを警告する通信を送っていたのです。 軍当局は疑問点が多数残っていることを挙げて、攻撃が実際に行われたかどうか断定することは避けました。 連邦海軍の緊急サービス管理官、エレッテ・ドゥケ氏は市民向けに冷静さを保つよう呼びかけた上で、早期警戒システムは確かに核攻撃に反応するよう設計されているものの、自然現象がプローブ発射を誘発した可能性があるとしました。」
「…ふむ…」
「9時52分。 ミンマター、サッカー部族のグレートキャラバンがグレートワイルドランドリージョン、SL-YBSシステムを航行中に消息を経ったと報じられました。 通常、数百隻からなるグレードキャラバンの何の連絡もなくただ消えるということは稀で、サッカー部族はサンマター・マレアツ・シャコールと緊急協議を行っている、ということでした。 更に10時2分、ガレンテ、アウアスレアトシステム、アウアスレアトⅢ軌道上の連邦海軍試験施設ステーション宇宙港でセイリンシステムに関するニュースを目撃した乗客がパニックを起こし、システムから脱出しようと停泊中の艦船へと殺到し、多数の負傷者が出たと報じられました。 そのような混乱が続く中、10時3分、ブーリンズシステムでケイル大学の研究者による緊急会議が開催。 現在進行中のセイリンⅠの大惨事は、同システムの青色恒星が放出した『恒星放射線パルス』が原因だと結論づけました。 被害規模は核攻撃を含む軍事攻撃を遥かに凌駕するものであり、これほど広範囲、そして深刻な被害を地下深くにある都市まで瞬時にもたらすことのできる兵器は、この星団中のどの国家も所有していない、と指摘しました。 更に不吉なことに、100万年程度は猶予があるはずではあるものの、セイリンの青色…O型恒星が超新星爆発を起こす可能性が否定できない、という意見もありました。 セイリンⅠの状況は、超新星爆発かそれに類する恒星現象が起きたことによる紫外線エネルギーや、高エネルギー粒子の直撃に晒されたことを示唆していたのです。 地下深くに潜るか夜側にいればその熱からは逃れることはできるのでしょうが、放射線はシステム全体へと影響を与えるものであり、この規模の放射線パルスの直撃を受ければ、生存の可能性はほぼない、と。」
「核攻撃ではなく… 恒星異常現象だったということなのですな?」
「そういうことになりますわね。 さて、10時7分。 OREは3HQC-6Ⅰで活動中だったディープコア調査隊が遭難したと発表しました。 OREは即座に救助を試みたものの、調査隊が惑星に接近しないよう警告、救助は中断されました。 調査隊が最後に送った通信について、ORE本社の従業員が匿名で語ったところによると、彼らは『数分以内に自分達は全滅する』『核兵器か、放射線パルス兵器が地表で爆発したと推測できる』とのことでした。 このタイミングは、奇妙なことにセイリンⅠの大惨事とほぼ同時刻であり、また、調査隊の最期はセイリンシステムの犠牲者を連想させるものでした。 OREの救助隊によれば、惑星が放射線が輝いている、惑星昼側の温度が通常時の数倍に達している、と。 そして10時8分。 連邦海軍やCONCORDの艦船がセイリンⅠに到着する中、CONCORDが『かつてない規模の自然災害の発生』を確認。 まもなくフォーリタン大統領との共同会見を実施すると発表。 セイリンⅠには数百隻規模のドレッドノート、艦載機母艦、フレイターなどが次々と到着しており、史上最大規模の救出作戦が今にも始まろうという段階でした。 海軍の艦載機母艦は負傷者の避難のために降下艇を出撃させ、その他多数のキャピタルクラス艦や、フレイターが物資の運搬、軌道上での応急処理、トリアージ施設として稼働するつもりであるとも。」
「OREでも似たようなことが同時に? 」
「えぇ。 続けて10時14分。 CONCORDのオダカ局長とガレンテのフォーリタン大統領が共同会見を開き、ここまで判明した情報を発表しました。 いくつかかいつまむと… 8時41分、セイリンⅠの観測施設が衛星ネットワーク『カサンドラ』の停止を報告、8時49分、主要な地下都市のサザンクロス市、メタルシティ市、ヴァリモア市、ロードコア市の液体ルーターが予防的に自主停止。 更に8時59分、サザンクロス市との通信が復旧、惑星全体の液体ルーターが放射線パルスにより機能停止。 また、電力系統も惑星全域で破壊され、地下20メートルより上にあった全ての設備が熱、及び放射線により完全に破壊された、と。 また、このパルスは他国の攻撃ではなくセイリンの恒星が引き起こした原因不明かつ特異な恒星現象であるとしました。 被害規模を鑑み、フォーリタン大統領はアンテソン・ランシェル大提督を指揮官とする避難作戦を指示しました。 CONCORD艦隊のバックアップの下、降下艇は夜側のサザンクロス市とヴァリモア市から避難民を輸送することとし、昼側のロードコア市とメタルシティ市の市民にはバックアップ電源で動作中の磁気鉄道を利用し、夜側の両都市へと移動するよう呼びかけられました。」
「…ここまで僅か2時間ほどのことなのですな。」
「そうですわね、ミスター。 このセイリン大災害は驚くほど一瞬の間に事態が進行していったのです。 合わせて、このあたりから少しずつ報道が何時頃のものだったかという記録も正常に残されてはいませんが、少なくとも、時系列の整理はできているので続けてお話しますわね。」
「えぇ、お願いしますぞ、シオンハート女史。」
「はい。 さて、セイリンⅠでの惨事が理解され、恒星放射パルスが1つのシステムに限った事件でないといういくつかの兆候が示された結果、ニューエデン全体にパニックが広まりつつありました。 ガレンテにおいては群衆パニックの報告が増加し、特にガレンテ鉱業界においては重要な採掘惑星であったセイリンⅠの喪失の影響が早期に現れ、株価の大暴落を招いていました。 カルダリでは、連邦と国境を接するエリアで多くの市民が連邦との戦争への恐怖に駆られ、緊急避難シェルターへの避難を開始、一部ではあまりの避難者の殺到に当局が圧倒されるようなこともあったと。 そんな中、セイリンⅠの状況はより悪化しつつありました。 多くのキャピタルクラス艦が軌道上で医療センターや降下艇の拠点として機能していました。 収容された負傷者の大半は異常現象よりも、建造物の崩壊などの二次災害によるものだったそうです。 降下艇も負傷者を軌道上で降ろした後は、給油の完了と同時に地表へと引き返すというサイクルを繰り返したようですわ。 しかしながらセイリンⅠは大気を持たない惑星であり、被災者の回収は宇宙港頼りでした。 サザンクロス市とヴァリモア市には37の宇宙港があり、それぞれ20基の乗降用施設を備えており、また、このような緊急事態に備えた搭乗口もありましたが、それでも降下艇に一度に乗れるのは最大のものでも500名が精々。 この時点で、サザンクロス市は8000万、ヴァリモア市は1億1000万の人口を抱えていると言われていたのです。」
「…その2つの市だけで、1億9000万人… 降下艇にして…38万回の輸送が必要…」
「非現実的な数値、と言われればそれまでですわね。 このようなパニックの中、悲劇もありました。 それぞれ200名ほどの過積載状態で離陸しようとした降下艇2隻が衝突事故を起こし墜落。 乗員や地上で待機していた避難民を巻き込み、4000人ほどが犠牲になったそうです。 連邦海兵隊はこれを受け、即座に規制線を敷き、それ以上の過積載事故を阻止しようとしました。 3ジャンプ圏内にある軍所属艦や、民間通信ネットワークが受信した救難要請は実に数十万件に上り、それに混ざるように、セイリンⅠ地表の惨状を示すような映像も送られていました。 とある映像には、乱れており、また短かったものの、放射線熱傷や放射線中毒に苦しむセイリンの人々が映されていたのです。 このような絶望的状況下において、ガレンテ連邦と常々敵対してきたサーペンティスコーポレーションは支援を表明、非武装かつ支援要員、支援物資を満載した艦隊を連邦海軍の許可の下、セイリンシステムへ突入させました。 この艦隊はOREが提供した特殊な掘削装備も運搬しており、降下艇の着陸地点造成や障害物の除去に利用可能だとサーペンティスコーポレーションの広報官は発表していました。 セイリンⅠの惨劇を考慮し、フォーリタン大統領はサーペンティスコーポレーションに謝意を述べつつ、これが今までの悪行の償いになるわけではない、と警告。 対するサーペンティスコーポレーションのCEO、サルバドール・サーパティ氏も思うところがあるのはお互い様だろうが、セイリンの生存者を救助するまでは一時休戦といこう、と返していました。」
「サーペンティスは違法なことしかしていない割に、自分達をあくまで純粋な一企業として見ておりますからな… 何と言うか、変なところで高潔、というか…」
「これで違法なことさえしていなければどれだけ良かったことか。 続けて、ガレンテメディアのThe Scopeがフォーリタン大統領がメタルシティ市、ロードコア市の被災者に向けたメッセージを中継しました。 内容は、ただ救助を待つのではなく、磁気鉄道を利用し安全な救出地点まで移動するように求めるものでした。 両市は恒星からの放射線パルスの直撃を受けた側であり、降下艇が接近することができなかったのです。 この時点までに25万人が惑星から救助されていましたが、当時のガレンテ連邦国勢調査局の資料によると、セイリンⅠの総人口は実に5億人に上っていた…と。」
「…」
「続けて、ガレンテの慈善団体、レニン救済機関は持ちうる全ての艦船や物資を最後の1つに至るまで投入し、セイリンⅠの支援を発表。 対照的に、アマーでは原理主義団体である神の義の集会場がセイリンシステムにおける破滅的な恒星現象を『神の浄化の炎』とする声名を発表、この現象は聖典に予言されていたことであり、異端国家であるガレンテ連邦への正義の復讐であると主張していました。」
「こんな時にまでアマーは… 本当に救いようのない連中ですな。」
「宗教というものは人の目を曇らせることもあるものですわね。 さて、そのように星間社会が反応する中、今度はシンジケートリージョン、35-RK9システムの恒星から16AUの距離にあるシンジケートステーションから1つの報告が寄せられました。 その内容は、ステーションが放射線パルスの直撃を受け、シールドシステムがほぼ全損、多くの電気系統が破壊されたとのことでした。 直撃を受けたもののステーションが破壊されるに至らなかった理由としては、恒星から十分な距離があったため、とされています。 これにより、この日確認された恒星現象が3つとなりました。 同じ頃、セイリンの恒星を調査していたCONCORDのプローブが行方不明になり、恐らく破壊されたらしいとThe Scopeが報道。 しかしながら、この件を報じた記者がDEDに正当な手続きを踏まずに拘束され、CONCORDはこれらに関する一切のコメントを拒否しました。 この頃にはセイリンⅠの大災害が自然現象によるものでありながら、また多くの場所で起きているということが明確になりつつありましたが、ガレンテ全土において自然発生的な反カルダリデモが起きていました。 彼らはカルダリ連合が極悪非道な新兵器を投入したと信じ込んでおり、フォーリタン大統領の発言もそれを抑えるには不十分だったようです。 それを受け、フォーリタン大統領はセイリンの救援により多くの艦船が必要されていることからも、カルダリとの国境に配備した艦隊を即座に撤収させ、両国間の緊張緩和を図りました。 この動きにカルダリ海軍が即座に応答することはしませんでした。」
「ここでもやはりこの問題は起きるのですな…」
「歴史的対立というものが簡単に解決するのであれば、今頃戦争なんてものはこのクラスターから消えてなくなっていますからね、ミスター。 続けて、アマー方面でも再び動きがありました。 ミンマターとの国境地帯であるコウルモネンシステムで活動中だったアマー海軍の偵察、哨戒艦隊が突如として消息を絶ったとの報告が上がったのです。 現地の司令部は厳戒態勢を敷き、対するミンマターはそれに呼応するようにオーガシステムの艦隊を展開させました。 しかし、1時間程経った頃、この艦隊との通信は復旧し、また、1隻も損失が確認されず、放射線パルスが発生したとの兆候もなかったようです。 アマー、ミンマター国境線においてはその他の軍事的行動が見られることはありませんでした。」
「…なんだったのでしょうな、その…アマーの行動は。」
「…分かりませんわ。 火事場泥棒でもするつもりだったのでしょうか。 さて、クラスター中に混乱が広がる中、セイリンⅠの状況は悪化し続けていました。 正午過ぎ、ロードコア市とサザンクロス市を結ぶ磁気鉄道が故障し、数千人の被災者がそこに取り残されたとの報告がありました。 フォーリタン大統領の声名によりロードコア市とメタルシティ市の被災者は鉄道駅へと殺到していましたが、数時間もしないうちに磁気鉄道の故障が発生、身動きの取れない状態となってしまいました。 デュボーレ研究所の研究員は復旧の可能性についてのコメントを求められた際、磁気鉄道はこのような状況下での運用は想定されていない、損傷具合によるとはいえ、復旧には何時間もかかるだろう、としていました。 セイリンⅠ救助隊はこのような状況を『まるで地獄だ』と表現し、多くの救助隊員が作業中に高線量の放射線を受けていることが報告されました。 サザンクロス市での救助に当たったガレンテ海軍のとある軍曹は、僅か2時間半程度の作業ながら、重装備でありながらも酷い放射線熱傷を負ったそうです。 放射線中毒は災害救助担当者による通信のリークでも話題となり、その担当者は昼側の─ロードコア市の生存者に高線量の放射線を受けた兆候があることについて『彼らはもう死んでいるんだ、ただ、それに彼らは気づいていないだろうが。』という司令部からの返答を聞いたと証言しています。 なんであれ、いずれにせよ死ぬ運命にある人々という厳しい見通しは、ニューエデン全体に衝撃を与えていました。 しかしながら、この救出活動はニューエデンの歴史を見ても最大規模の人道主義的活動でもありました。 ガレンテ、サーペンティス、CONCORD、ORE、それだけに留まらない、有志達。 本来ならあり得るはずのなかった共同艦隊は、この地獄から5億人もの人々を救い出すため、尽力していたのです。 先ほどの軍曹の証言によれば、サーペンティスの部隊が子供達を救助するため、溶けた金属の海を突き進む姿を見た、とも。 全くの他人であるというのに、彼らを救うために、皆が火の海に進んで身を投じていった、と。 この軍曹とその部隊は軌道上に帰還すると同時にCONCORDの戦艦『リダウト』の医療区画に半ば閉じ込められるように収容されましたが、放射線対策が終わればすぐにでも戻るつもりだ、とコメントしていたようです。」
「ありとあらゆる組織が、絶望の淵にいる人々を救おうとしていた。 なんという奇跡でしょうか。」
「全てはより多くの命を救うために。 彼らは自分の命を危機に晒そうとも、1人でも多くの生存者の救出を掲げていたのですよ。 一方、ミンマターにおいては失踪した、後に重要なラカト-フロキャラバンだと判明したグレートキャラバンの捜索が何よりも優先されました。 サンマター・マレアツ・シャコールは共和国艦隊の戦力をラカト-フロキャラバンの捜索に振り向ける一方、その影響によってセイリンの大災害に対する共和国の対応能力は最小限になることを発表しました。 ラカト-フロキャラバンが最後に確認されたSL-YBSシステムのチェックポイントを中心とした空間をグレートワイルドランド内のミンマター、サッカー艦隊を仲介していたトラストパートナーコーポレーションの支援などを受けながら共和国艦隊やサッカー艦隊は捜索していたのです。 また、アマーは当時の首相にして皇位継承候補者の1人、アリッツィオ・コル・アゾール氏が女帝ジャミル1世の命により、ガレンテ連邦への公式な支援が表明されました。 これは神の義の集会場が発表した主張がアマーを代弁していると取られないように懸念したものとされており、その発表の中で、両国の間には多くの不和があるものの、このような状況では救いの手を差し伸べることが唯一の正しい行いである、自然現象は神の御業であるからして、これは我々の信仰と意思を神がお試しになっているのだ。 帝国はこの試練を必ずや乗り越えるだろう、としていました。 フォーリタン大統領の要請を受けてガレンテに向かったのは皇位継承候補者ウリアム・カドール氏が率いる艦隊でしたが、この艦隊はこの半年前にガレンテ連邦への侵攻に携わっていたものであり、なんとも皮肉というか…そういった展開となっていたのです。」
「…彼らはなんでもかんでも神の御業ということにすればいいと思っているのではないですかな…」
「都合のいい言い訳か何かだと思っているのでしょう。 …どちらかというと国内向けに? …それから、ガレンテではビロアⅦのカルダリ外交領事館をデモ隊が包囲し、投石を行うという事件が起きていました。 これを受け地元警察は暴徒と化したデモを非殺傷型装備で鎮圧し、事態が制御不能となる前に鎮圧しました。 当局はセイリンの悲劇はカルダリに起因するものではないと改めて市民に保証し、平和の回復を図りました。 このような連邦における反カルダリ的騒動にも関わらず、カルダリ連合指導者のタイバス・ヘス氏は連邦海軍の国境からの撤退に応じ、防衛体制を強化した上で、艦隊を後退させました。 その上で、カルダリはガレンテへの支援の申し入れを繰り返し発表していました。 また、ガレンテ連邦首都であるルミネールシステムにある連邦証券取引所は午前中の取引の混乱が継続するであろうことが明らかになったため、午後からの取引を追って通知があるまで停止することを発表していました。 一方、その頃ガレンテの緊急インフラはセイリンⅠからの避難民がセイリンⅠを離れ始めたため、深刻な過負荷に備え始めていました。 関係者が最も懸念していたのは、程度に差はあれど、放射線を浴びた人々が非常に多いということ。 もし避難民の放射線被爆の割合がその全てに及ぶようであれば、今ある放射線治療薬の備蓄では全く足りないという懸念があったのです。 それでも、携わった人々はあらゆる手段を駆使し、これを乗り切ろうとしていました。 公式には確認ができなかったものの、サーペンティスが保有している多量の鎮静剤や麻酔薬などの医薬品の提供を申し出たという話もあるようです。」
「混乱、支援、そして相変わらず謎の高潔さを見せるサーペンティス…」
「サーペンティス、割と本当にこの大災害における影の立役者なのかもしれませんわね… さて、最初のカサンドラの機能停止の報告から3時間が過ぎた頃。 The Scopeがこの日において最も絶望的な報道を発表しました。 CONCORDがセイリンⅠ直撃コースを取っている超高熱の大規模プラズマ流を確認したと報じたのです。 この熱源体は恒星方向から、恐るべき速さで加速しつつ時速数百万キロで接近中だ、と。 CONCORDとガレンテ海軍が速度から直撃のゼロアワーを計算し設定、現地で活動中の部隊はゼロアワーまでに撤退するように命令を受けていることも確認したとも報じられたのです。 CONCORDはこの報道を掲載したThe Scopeを非難し、ラース・キオーメン編集長のレポートを『性急、扇動的、無責任』としました。 この報道によりセイリンⅠは大パニックに陥り、一部の宇宙港では降下艇が引き返さざるを得ない事態や、座席を奪いあうトラブルが起きることすらありました。 同じ頃、カルダリのイシュコネコーポレーションが可能な限りの支援を行うことをガレンテに表明し、エッセンスやシンクレゾンに存在する社有施設は負傷者や避難民の受け入れを実施することをメンス・レッポラCEOが指示しました。 そんな中、The Scopeはサザンクロス市、ヴァリモア市に閉じ込められた記者との連絡を維持しており、その報告によると、街の大部分が停電しており、脱出のチャンスが完全に失われたことから不気味なまでの静けさに包まれていること、多くの市民は運命を受け入れ、愛する人々と一緒に静かな最期の時を過ごそうとしていることが分かっていました。 The Scopeは取り残された社員達に感動的とも言える別れのメッセージを放送しつつ、迫りくるプラズマ波の報道を続ける中、CONCORDと連邦海軍はジャーナリスト達との連携を停止。 このタイミングまでにセイリンⅠを脱出できた住民の数は、僅か84万人と少しだった、とのことでした。」
「…たったの、84万人。 5億もいる人口のうちの、それだけしか…」
「あまりにも事態が急速に進展しすぎたのです。 逆に言えば、3時間でこれだけの人間を救い出せたことのほうが奇跡なのかもしれませんわ。 …ケイル大学の研究者達は、セイリンⅠを直撃しようとしている超高熱源体は恒星から放出された巨大なプラズマ波であるという結論に達し、これは絶望を更に深める結果となりました。 連邦海兵隊が降下艇に押し寄せる市民に発砲した、だとか、何百、何千万という無実の市民が惑星に取り残される中、損傷した刑務所から脱獄した凶悪犯が惑星から脱出したという報告に憤慨が生じていることも報告されていました。 しかしながら、刑務所周辺の救助活動に手を貸そうとする者もいた、と言われています。 続けて、ミンマターからはサンマター・マレアツ・シャコールの発表として、行方不明であったサッカー部族のラカト-フログレートキャラバンの壊滅が報告されていました。 サンマター・マレアツ・シャコールはこの原因をセイリンやシンジケートで確認された異常恒星現象によるものである、と発表し、重大かつ悲劇的な規模の人命が失われた、としました。 これにより、この日に同時に発生した大規模恒星現象は4つとなり、ニューエデン全体を壊滅させる大災害が迫っているとの恐怖がクラスター中で噂されることとなっていました。 アマーにおいては神の義の集会場が新たな声名を発表し、セイリンで失われた人々は神の栄光と力を思い知らしめる標となるだろう、と主張していました。 アマー政府はこの声名へのコメントを拒否した上で、全ての記者に対し、女帝の公式見解、及び、帝国が連邦に申し入れた支援についての案内を紹介を繰り返していました。」
「この…短時間の間にニューエデン全体でそんな悲劇が起きていたとは。」
「更に不可解な情報は続きます。 サーバントシスターズオブイブがニューエデン全域において、前例のない不安定なワームホール形成の兆候を検出したと突如発表したのです。 高度に技術的な表現ではありましたが、SoEいわく、『時空構造における欠陥を介した乱流がクラスター内の様々な場所で検出されており』更に『ニューエデン全域の複数のシステムの不安定な挙動と一致する』と指摘していました。 …噛み砕いて言えば、この隠遁的な人道、科学的組織は、ニューエデン全域で多数のワームホールの形成を予測し、それがセイリンと少なくとも他3つのシステムで目撃されたような恒星現象と一致する、としていたのです。 SoEがこの手の未確認の現象に言及したことは若干の混乱を誘発したものの、SoEはワームホールそのものの危険性に言及、CONCORDにそのようなワームホールを回避するための航行警告情報を発表するように呼びかけました。 SoEという、何十年にも渡るEVEゲート及び関連事項の研究を行ってきた専門的組織による警告は、クラスター中で真剣に受け止められる結果となったのです。 」
「SoEはEVEゲート研究の第一人者としても有名ですからな。 当時はニューエデンに他に存在しなかった自然現象としてのワームホールへの知識は、他の誰にも劣らないものだったのでしょうな…」
「そうでしょうね、ミスター。 クラスター中がこのように動き続ける中、セイリンシステムにあるローデン造船所とクレオドロンのステーションは、ステーション管理者が安全だと判断する限り、開放し続けると両社が共同声明で発表。 プラズマ流の直撃を前にステーションが安全なのかどうかについてはCONCORDも連邦海軍もコメントを避けていました。 そして、14時30分頃、セイリンⅠ軌道上で活動中だった艦船が全て離脱を開始し、スターゲートへと急行していることが確認されました。 避難命令を無視したThe Scopeの艦船が連邦海軍から砲撃されたりもしましたが、離脱する前に、降下艇が全て惑星を離れ、避難活動が終了していたことを確認してもいました。 そして、アポルリー、アン、メッセレルシステムからセイリンシステムへと繋がるスターゲートは全てCONCORD艦隊によって封鎖が実施されました。 …The Scopeの報道した、ゼロアワーが訪れようとしていたのです。」
「つまりは…」
「14時35分。 セイリンシステムに繋がる3つのスターゲートが停止。 セイリンシステムからの全ての通信が途絶。 液体ルーターの自動再起動は失敗、セイリンⅠからの自動救難信号もその全てが消失。」
「セイリンⅠは…」
「14時54分。 セイリンシステムを封鎖していたCONCORD艦隊がサーペンティス艦からの救難信号を受信。 機械的故障によりスターゲートへ到達できなかったその艦はワープドライブを応急修理し、セイリンⅠへと引き返そうとしたようです。 しかし、その信号には音声も含まれていました。 『誰でもいい、この通信が聞こえている者へ。 セイリンⅠは最早存在しない。 聞こえているだろうか? セイリンⅠは消滅した。 近づこうとはするな。』と。」
「…」
「15時35分。 CONCORDと連邦海軍がセイリンシステムの封鎖を解除。 進入は許可されたものの、セイリンⅠには接近しないように警告が発表。 15時37分。 遠隔探査プローブがセイリンⅠを確認。 フォーリタン大統領はセイリンⅠの消失を確認し、ニューエデン全域に演説を行いました。 その中で、惑星から避難した住民は僅か100万に満たないレベルであること、安定した惑星としてのセイリンⅠの実質的な破壊により、5億人が犠牲となったことを発表しました。 また、避難活動中の情報非公開の決定についての責任や、記者拘束の命令が自身によるものであったことも認めました。 The Scopeによる現地からの中継映像によれば、プラズマ波がその場を通過していったことは明らかであり、残骸となった惑星が徐々に球体に戻っていく様子が映っていたとのことです。 重力中心点を中心とする軌道上には巨大な破片などが見られ、CONCORDの警告にも関わらず、カプセラがそれらを調査する様子も見られました。 そして、CONCORDはSoEが予測した『位相的な時空欠陥』が実際にワームホールであることを確認し、ワームホールの危険性を警告しました。 ワームホールはミスター、貴方も知っての通り、寿命は短く、かつ非常に不安定なもの。 艦船の進入に耐えうる構造的安定性はあるものの、いつ消滅するかの予測は困難であり、CONCORDはこのようなワームホールを通過する人々を保護できないとして、強制力のない渡航禁止令を発動しました。 …この後に、新たに発見されていくワームホールの向こう側の世界を巡る各国や企業、カプセラの様々な話は続くのですが、ここまでが、ひとまずこのセイリン大災害に関するお話ですわ、ミスター。 …少々長々と喋り過ぎましたかもしれませんが。」
「…つい先ほどもカイリオラの件で似たようなやりとりをしたような気はしますが… まさかここまでの大きな事件だったとは。 しかし、最初の報告から…僅か6時間程度で…5億人もの人命が奪われるとは。」
「…自然というものはかくも恐ろしいものですわね。 仕方のないことではありますが… さて、脱線はこのあたりにしておきましょう。」
「そうですな… 次は…」
「ステラートランスミューター危機や、新会社、エバーモアに関するお話ですわね。 まだまだ続きますわよ、ミスター。」
「望むところ、というところですぞ、シオンハート女史。」

 

※当記事は橘 雪(たちばな ゆき)/El Shionheart氏による寄稿記事になります。

 

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