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【New Eden Headline】3・『カイリオラ ─ガレンテ-カルダリ戦争とカルダリ連合の独立』

「AD23155年。 YC0年がAD23236年ですから、今から200年ほど前のことになりますわ。 」
「ふむ。 2世紀ほど前… 長い歴史から見ればつい最近とも言えますな。」
「そうですわね。 EVEゲートが開き、ニューエデンへの入植が始まったのがAD7987年のこと。 そう考えれば、ほんのついこの前とでも言えるでしょう。 」

15000もの長い時間からすれば、その1%程度の時間に過ぎない。
だが、これは長い意味を持つ…

「その年、カルダリはガレンテとの長きに渡る戦争状態へと突入しました。 発端となったのはそれから更に300年ほど前の事。 とあるカルダリ企業が星間植民事業を開始しましたわ。 ソティヨ-ウルバータドライブと呼ばれる初歩的なワープドライブの登場により、ガレンテプライムとカルダリプライム以外の惑星にも手が伸びるようになったから、とも言われています。 それ以前からこの2つの惑星はスターゲートで結ばれていたのですけれどもね。」
「惑星植民… 今となっては当然のことですが、当時はそれはそれは大きな事業だったのでしょうな。」
「きっとそうでしょうね。 さて、問題はこの事業は当時のガレンテ政府の認可を受けていなかったということ。 この植民地が偶然にもガレンテの探査船に発見されるやいなや、ガレンテ上院議会はこれに対する調査を要求、その上ですべてのカルダリ植民地は直ちにガレンテの統治下に置かれるべきだと主張しましたの。」
「…ふむ。」
「ですが、この要求はカルダリにとっては過酷なものでした。 彼らは常日頃からのガレンテの干渉に不満を抱えていたとも言われています。 そして、譲歩し独立、自治の機会を永遠に失うか、あるいは、踏みとどまり、抵抗するのか。 当時のカルダリにとってはあまりにも単純な問題でした。 …そう、彼らは抵抗の道を選んだのですわ。 その時、現代においても我らカルダリをカルダリたらしめ、統治する存在。 代表取締役委員会、通称CEPがカルダリ上位8企業の緊急会合により結成され、彼らはガレンテからの独立を宣言。 カルダリ連合と呼ばれるようになったのです。」
「何ともカルダリらしい… まさに、自らの利益は自らで確保する、と。」
「まさしくそうですわ。 決して躊躇はせず、後悔もせず…ですわ。 開戦寸前となったこの状況の時点で事態が切迫していたのはやはり、カルダリプライムの存在、そしてその位置ですわ。 というのも、ガレンテプライムとカルダリプライムは同じシステム内、しかも隣り合った惑星同士。 あまりにも近すぎたのですわ。 これもあり、多くのガレンテ人がカルダリとの決定的な決裂の時点でも生活していたのです。 カルダリ連合はガレンテからの独立を選んだ直後、植民地へと繋がるゲートを確保を最優先としました。 当時のカルダリ軍はこれらに支えられていましたから。 ガレンテも合わせて、カルダリプライム軌道上を艦隊で封鎖。 惑星と宇宙との行き来を制限しようとしました。」

まぁ、当時の環境を考えれば、軌道封鎖は効果的な手段なのは間違いない。

「そして、そんな状態が数日間続いたと言われていますの。 その間、ガレンテは自らの優位性を認識しているが故に平和的な解決策を模索し、カルダリもゲートさえ確保されていればどうにかなると考えていたのです。 しかしながら、カルダリプライムに住むカルダリ人達はそうもいかず、次第に落ち着きを失い… ガレンテによる軌道封鎖を認めようとしなかった彼らは小規模なゲリラ活動を開始し、それはすぐに全面衝突へと激化。 …ガレンテは、その優柔不断さの代償を、ガレンテ人の命を持って支払ったのです。」
「…ガレンテ人の命?」
「カルダリプライムのガレンテ人の水中都市、ヌーヴェル・ルーヴェナー。 人口は50万人ほど。 …カルダリの過激派パルチザン、テンプリス・ドラゴナーズの手により、そのガラスドームが爆破されたのです。」
「水中都市のガラスドームを爆破!? そんなことをしたら…」
「言うまでもありません。 ステーションの外壁をアーマーはおろかシールドまで一気に爆破するのと同義です。 ヌーヴェル・ルーヴェナーのガレンテ人はそのほとんどが犠牲になった、と。」
「…」

言葉もない、か。
事実、この攻撃はさすがの私もカルダリの歴史における最大の恥だとは考えている。
カルダリがカルダリであるために必要なことだったとはいえ、もっと被害を少なく済ませられる場所もあっただろう。

「この攻撃が決定的となり、両国の敵対は確実なものとなりました。 当然、この攻撃に怒りを覚えたガレンテ人はヌーヴェル・ルーヴェナーの惨事に対する対応を時の政権へと要求。 当時の大統領は自らの優柔不断さがこの大惨事を招いたとし、不名誉のままに辞任。 その後すぐに、超国家主義者と呼ばれる人間達によるファシスト的政権が成立。 新たな大統領に就任した男の名はリュック・デュバイラー。 彼は憲法の停止を宣言し、この戦争は国家非常事態であるとし、直ちに疑う余地のない対応をする他ない、と。」

なんだか私が喋ってばかりな気がするな…
いやまぁ、仕方ないか。

「彼は海軍にカルダリプライムへの軌道爆撃を命令しました。 当時のカルダリプライムの人口は数十億。 戦術的な意図でしかなかった軌道爆撃であっても、たった1日のうちにカルダリ人とガレンテ人を合わせ、何十万もの民間人が犠牲となり、街やランドマークが、地区ごと地図上から消えることとなりました。 デュバイラー大統領はこのような過酷な攻撃によってカルダリの意志を即座に打ち砕き、降伏させられるだろうと信じていましたが、そうはなりませんでした。 カルダリプライムの荒涼とした環境では、カルダリ人に圧倒的なアドバンテージがあったのです。 ガレンテの海軍は既に避難の終わり、人気のなくなった市街地を砲撃したり、何もないツンドラ地帯でカルダリ軍の幻影を追っていたのです。」
「そういえば…確かにカルダリプライムはルミネールの第7惑星。 恒星光も多くは届かず、氷雪に覆われている、と。」
「ですわね。 そんな過酷な環境で生まれ育ったからこそ、当時のカルダリ人はどんな苦難にも勇敢に立ち向かえたのですわ。 しかし、このような驚異的な抵抗にも関わらず、カルダリは内部分裂を繰り返していたのです。 当時のCEPメンバーの一部は、カルダリプライムにもたらされた破壊を目の当たりにし、降伏を支持する者もいました。 しかしながら、その他のメンバーは降伏すればカルダリプライムが破壊されるより先に、カルダリそのものが破壊されてしまうだろうと主張し、徹底抗戦を支持していました。 両陣営はしばらく拮抗したものの、最終的には説得の朝事件と呼ばれる出来事で抗戦派の6企業のCEOにより、残りのメンバーは追放、彼らはカルダリの伝統的な自殺儀式であるティーメーカーズ・セレモニーへと追い込まれました。」

ガレンテはこちらが隙を見せたなら、好き放題に踏み込んでくるだろう。
それは今も昔も変わらない事実に違いない。

「ともかく、そうやって意思を統一したCEPは、カルダリプライムの維持は最早不可能であることを悟り、全住民の脱出計画を立てました。 しかしながら、ガレンテによる軌道封鎖により、それは実現不可能。 脱出には最低でも1ヵ月間、カルダリプライム軌道上を完全に制御する必要がありましたが、その時点でまだただの1日すら達成できていなかったのです。」
「今現在においても惑星軌道を制圧することは、それ即ち惑星を制圧することを意味しますからな…」
「惑星の重力というものはやはり、強大なものなのですよ、ミスター。 さて… そんな中、ガレンテ超国家主義政権には緊張の兆しがありました。 当時からガレンテ人は自由主義であり、戒厳令の下で生活することを嫌い抗議活動を起こしましたが、それらはすぐに鎮圧。 政権に異議を唱えた政府高官すらもが即座に解任され、軍部でも有能な司令官達がデュバイラー大統領の不審な命令を拒否し、辞職する有様だったのです。 当然、ある種のパラノイアにあったデュバイラー大統領やその政権は、後任に名前ばかりの追従者、イエスマンを据えていったのです。」
「よくあることですな。 何も信用できなくなった指導者は最終的に能力も何も関係なしに、自分をひたすら褒め称えるだけの人間を重用する。」
「全くですわ、ミスター。 そうして滅びた組織は一体どれほどか。 それで、同時期にガレンテ、インタキプライムにおいては親カルダリ運動が起きていました。 デュバイラー大統領はこの問題を解決すべく、最も脅威的であるとされた5000人規模のインタキ人逮捕を命じました。 この中には平和的な活動家に始まり、反政府組織の指導者、それに反ガレンテ凶悪犯罪者などが含まれていました。 デュバイラー大統領はこの人々を投獄して新たな抗議グループにしたり、あるいは処刑して殉教者にさせるのではなく、遠く離れた宙域へと追放することを選んだのです。 この時追放された人々が後にインタキシンジケートを設立するのですが… まぁ、これはまた後ほどお話しましょう。」
「インタキシンジケート、違法商取引の一番街、ですな… そういえば先日も大きな動きがありましたな。」
「えぇ。 私もまさかインタキシンジケートが今この情勢に明確に関わってくるとは思いもしませんでしたわ。 話を戻して… そんな事件もあり、ガレンテ海軍は有能な司令官を失い、まだ若いカルダリ海軍は徐々に優位を取り戻すことに成功しました。 ある程度は奇襲攻撃が有効であったことに加え、ガレンテ海軍の艦船は大型で鈍重、軌道爆撃をするための砲台同然。 それに加え、勇猛果敢なカルダリ人は、カルダリ、そして家族のためであれば、いかなる苦難であっても耐え忍ぶことができる。 次第にガレンテ海軍はカルダリプライム軌道上から追い出され、守勢へと回りました。 カルダリ海軍が優位を保てるのはごく僅かな時間に限られていると分かっていたCEPは即座に脱出を開始しました。 それから2週間、半数弱ものカルダリ人が惑星を離れるも、言い換えれば未だ過半数のカルダリ人が取り残されていました。 しかしながら無情にも、ガレンテは反撃の準備を整え、今にもカルダリプライムへと舞い戻ろうとしていました。 CEPはガレンテ海軍司令部がどれほど無能であろうとも、これ以上持ちこたえることは困難と判断し、カルダリ海軍全軍を撤退させ、脱出計画を断念しました。」
「国力差を考えれば,,,ですな。」
「そればかりは逆立ちしてもどうしようもないことですわ。 しかしながらカルダリの最も偉大な英雄、ヤキヤ・トヴィル-トバ提督はこの命令に背き、指揮下にあった数十の忠実な艦隊と共にガレンテプライムへと突撃、ゲリラ的反撃を試みたのです。 突然の奇襲に唖然としていたガレンテ海軍は初動対応で大幅な遅れを取り、大きな損害を被り、また、トヴィル-トバ提督の率いる艦隊がカルダリ海軍による総攻撃の先陣であると判断した彼らはカルダリプライムへの総攻撃の計画を破棄し、提督の艦隊を撃破することに多大な資源を投入することを選びました。 トヴィル-トバ提督は艦隊の移動、それから巧妙な策略を武器に、戦術的撤退を繰り返し、ガレンテ海軍の最も脆弱な部分への攻撃を繰り返しました。 カルダリ海軍の他の部隊がその全力を脱出計画に捧げている間、彼らは1週間もの間、ガレンテ海軍をガレンテプライムに縛り付けたのです。 当然、ガレンテはカルダリプライムからの脱出をみすみすと見逃すことを承知の上ではありましたが、提督の艦隊がガレンテプライムへの直接攻撃を試みているような動きをしていた以上、一度破棄したカルダリプライムへの総攻撃を今更行うわけにもいかなかったのです。 …そして、1週間の後、トヴィル-トバ提督の率いる艦隊は徐々にその戦力を失い、最後には自身の搭乗する酷く損傷した空母のみとなりました。」
「まさか… あの演説に登場した男… それからカイリオラというのは…」
「そうです。 カルダリ海軍の最初の艦載機母艦にして、商船を改造した急造艦、後世にキメラ級艦載機母艦が建造される礎となったその船。 その名を、カイリオラ。 それを指揮する艦長こそ、ヤキヤ・トヴィル-トバ提督その人なのですわ。 この時点でカルダリプライムに取り残されたカルダリ人は僅か4分の1以下。 しかしながら、これ以上戦闘を継続することを不可能と判断した提督は、最後の手段に打って出ました。」
「…と、いうことは…」
「提督は、カイリオラをガレンテプライム直近まで特攻させ… その軌道に投入しました。 ガレンテ海軍はすぐにカイリオラを迎撃すべく動きましたが、提督は戦いに来たわけではなく… 代わりに、その艦首を当時のガレンテ最大クラスの都市の1つ、ヒュエロモント市へと向けたのです。 意図に気づいたガレンテ海軍の決死の追撃を振り切り、ヒュエロモント市上空でガレンテプライム大気圏へと突入したカイリオラは、しかし、その損傷が故に耐えきれず空中分解。 提督を含めた全ての乗員がカルダリのために殉死しました。 しかし、3つに分裂したカイリオラの破片のうち、その最も大きなものはヒュエロモント市をその壊滅的な力を持って直撃。 その時に生じた爆発により、200万人とも言われる人間が即死し、放射性降下物や火災、その他あらゆる負傷によりその後数日間で更に数百万人に死がもたらされました。 塵と瓦礫が大気を覆いつくし、周囲数キロは昼も夜もなく暗闇に包まれることになったのです。」
「…た、たった一度の攻撃で数百万人を…」
「恐慌状態に陥ったガレンテ政権は、海軍全艦をガレンテプライム軌道上に帰還させ、そこを防衛するように命じました。 結果として、カルダリ海軍はカルダリプライムからの脱出を完了させるために解放されることとなりました。 そして、ヒュエロモント市の破壊はガレンテ指導部の失態を露呈させる結果となり、既に蔓延していた軍の脱走は歯止めの効かないものとなり、都市部では連日抗議デモが発生、これが法執行機関により阻止されることすらありませんでした。 ガレンテを構成するいくつかの構成国に至っては、超国家主義政権に対抗するために民兵組織を結成するにまで至ったのです。 しばらくの間膠着状態が続いたものの、ついにはデュバイラー大統領は敗北を認め、戒厳令を解除。 その直後、元超国家主義者の議員すらもが賛成に票を投じ、連邦上院議会は大統領不信任決議を可決しました。 当然、デュバイラー大統領は辞任を余儀なくされたのです。」

…さすがにちょっと捲し立てすぎたか?
うーん、若干面前の男も引いているように見えるが…
これは私に引いているのか?
それとも、ここまでの話の内容に?
まぁいい、ここまで話しておいて立ち止まるわけにもいかないさ。

「それから、新たに就任した大統領は早速いくつかの問題に直面することになったのです。 第一に、カルダリプライムは人口が大きく減ったとはいえ、ガレンテにとっては経済的にも象徴的にも未だ無視しえないものであり、未だ数百万のガレンテ人と脱出を拒否した少数のカルダリ人が残っていました。 これにより、ガレンテ政権は復興支援に多額の資金を投入せざるを得なかったのです。 第二に、超国家主義政権によるカルダリプライムへの軌道爆撃の命令はジェノサイド未遂として見なされるようになり、リュック・デュバイラー元大統領をはじめとする超国家主義者の指導者達は戦争犯罪の容疑で逮捕され、裁判にかけられることとなり、そのほとんどは容疑を激しく否定したにも関わらず、有罪となりました。 多くの人間が終身刑となり、デュバイラー元大統領はかつて自身がインタキ人を追放した宙域へと追放され、無名のままこの世を去ることとなりました。 その後、カルダリはガレンテ連邦という国家を脅かす反乱軍と見なされ続けましたが、超国家主義者達の没落に伴う混乱の最中、自陣を固め、海軍を増強する時間を得ることができました。 この戦争は熱戦から冷戦へと移行し、大規模な攻勢ではなく、小規模な国境線での小競り合いがその大半を占めるようになったのです。」
「…なんとコメントしていいものか。 そこまでの歴史があったとは全く知りませんでした、シオンハート女史。 …しかし、その後は?」
「その後ですか? まぁ、ここからは少々… ふむ、そうですわね。 時は独立から25年後。 AD23180年、ガレンテ連邦はアマー帝国との歴史的接触を果たしました。 ガレンテは自らと同等の規模を持つ文明を発見したこと、それ以上にアマーが奴隷制を含む野蛮な伝統を実践しているということにショックを受けるも、両者が互いを理解するに連れて、全面的衝突は、利益よりも損害が大きくなることをこれもまた、両者が理解することで戦乱へと発展することはありませんでした。」
「ほう… ここに来てアマーが出てくるとは。」
「ガレンテとアマーは自由主義と専制主義という正反対の文化であるにも関わらず、AD23210年、歴史的接触から30年後にガレンテ・アマー自由貿易協定を締結しました。 もっとも、これは双方の懸念を払拭するためのかなり制限的な内容だったらしいのですけれどもね。 しかしながら、この条約により、両国には不安定な平和がもたらされたのです。 そのような情勢の中、カルダリ連合はガレンテ連邦にカルダリプライムの返還を迫るため、国境沿いの惑星を攻撃し、また、ガレンテ連邦も反撃としてカルダリ連合の植民地を攻撃しました。 カルダリ海軍は大型のガレンテ海軍艦を凌駕する高性能な単座戦闘機を駆使し、ガレンテを守勢に回らせることに成功し、一時はガレンテ海軍をルミネールシステム…ガレンテプライム、そしてカルダリプライムがある地まで押し戻そうかという勢いでした。 しかし、ガレンテが土壇場で開発した戦闘用ドローンは戦況を大きく変えたのです。 これは最初こそ移動能力が多少ついた近接機雷に過ぎなかったものの、すぐに1つのドローンが1つの単座戦闘機に対抗できるレベルとなり、製造コストの低く、パイロットが必要とならないドローンを持つガレンテ連邦が有利を取り戻したのです。 国境線は元の位置まで戻りましたが、それに合わせるようにカルダリは単座戦闘機をよりアップグレードした新たな戦闘機クラスであるフリゲート艦を戦線に投入。 複数の乗組員を要するなど、期待したレベルには達してはいませんでしたが、これはガレンテ連邦の勢いを挫き、戦争は再び国境線での小競り合いへと戻りました。」
「ふむ、ここでフリゲートが出てくるのですな。 しかし、複数の乗組員… 今のフリゲート艦はカプセラならば1人で動かせますが…」
「それも追ってお話しましょう。 ガレンテ連邦がアマー帝国に接触するという事態の後、ガレンテ連邦市民はアマーが奴隷として使役しているミンマター人の苦境へと怒りの声を上げていました。 軍事的介入を求める声は大きかったものの、連邦政府は全面衝突のリスクを冒すことはできずにいました。 帝国軍の戦力はガレンテ連邦のように他国との戦争に直面していない上に、それでいえ、同等の戦力も持っていたからです。」
「なるほど… ミンマターが。」

再び目前の商人が目を細める。
まぁ、それもそうだ、自身のルーツに関わる話なのだから。
この男は間違いなく商人としての拝金主義も併せ持っているだろうが、それ以上に、こういった話も気にしているに違いない。

「そうですわ。 ガレンテは当然ミンマターとも接触を持っていたのです。 当時の連邦政府内には、密かにミンマター反乱軍を支援する動きがあったようです。 噂の限りであれば、連邦政府そのものが反乱軍を武装させているとすら。 事実、その頃の反乱軍の武装には”どういうわけか”連邦製のものが多かったのだと。 そして、アマー帝国がかのジョヴ帝国に無謀にも侵攻を試みるという致命的な戦略的ミスを犯し、艦隊のそのほぼ全てが壊滅した時、ミンマター反乱軍は最大の反乱を引き起こしたのです。 連邦政府はジョヴ帝国とも協力し、ミンマター反乱軍へとより公然と武装と軍事顧問を提供し始めたのです。 数か月もしないうちにミンマターはよろめく巨人であるアマーから重要な領土を切り取ることに成功し、連邦政府は即座にミンマターを共和国として、主権国家として承認。 専門家を派遣し、新政府樹立を支援したのです。 結果的に、ミンマター共和国は連邦政府の構造を手本としたものとなり、ミンマターの首相、議会、司法省はガレンテの大統領、上院議会、最高裁判所を反映したものとなっているのです。」
「…自分の出身のことはよく理解しているつもりでしたが、まさかそこまでガレンテが深く関わっていたとは。 自身の浅学を恥じるべきでしょうな…」
「そう卑屈になる必要はありませんわ、ミスター。 時は移りAD23224年。 カルダリ連合とガレンテ連邦の戦争は数十年にも渡って膠着状態でしたが、その年、突如としてカルダリ連合のフリゲートは遥かに危険で、機動性に優れたものになったのです。 背後にはジョヴ帝国の存在がありました。 …そう、ジョヴ帝国はカルダリ連合に、実験的かつ非常な危険なものではあったものの、静水圧カプセル技術を提供したのです。 ,,,そう、最初のカプセラの誕生です。 この技術を使用できる少数の選ばれた者による部隊は戦場においては比類なき強さを発揮し、連邦海軍を一気に押し戻すこととなったのです。 そして、戦争の最後に、両国は双方が大規模な最終攻勢へと転じたのです。 様々な事由が重なり、両軍はニューカルダリプライムから2ジャンプのシンクレゾンリージョン、アイアン-アウエスタシステムで相まみえることとなったのです。 勝利を確信していた両陣営は総力を戦線に投入し、結果、ニューエデンの歴史上、アマー・ジョヴ戦争のヴァク・アティオスの戦いに次ぐ2番目に大きな戦闘となりました。 戦闘は15時間以上、一説にはほぼ丸一日に渡り継続され、連邦海軍は壊滅的被害を受けながらも、同じく、カルダリ海軍にも同等の被害を与え、最終的にはカルダリ海軍が戦場から撤退することで戦闘は終結しました。 ガレンテ連邦は大損害を負いながらも、その戦いの勝利を主張したのです。」
「アイアン-アウエスタの戦いは初耳でしたが… ヴァク・アティオスの戦いは有名ですな。 先ほどもシオンハート女史が言っておりましたが、野蛮なアマー人が愚かにもジョヴ帝国に挑みかかり、あっさりとほんの数時間で壊滅させられたという…」
「そうですわね、ミスター。 あれ以来、ジョヴ帝国に挑みかかった者はどこの国家であろうと、ただの1人ともおりませんわ。 あれらは、あまりにも隔絶した何かを持っておりますもの。 さて、アイアン-アウエスタの戦いで多大な被害を受けた両軍ではありましたが、その後も小規模な小競り合いが継続されました。 そしてAD23236年、ジョヴ帝国の巡洋艦、ヨイウル級で執り行われたヨイウル会議において、EST…ニューエデン標準時と、YC歴の制定、YC0年の開始が決定されました。 それと同時期に、ガレンテでは企業家であり、慈善活動家でもあったエイドニス・エラボンがCONCORD設立において果たした重要な役割を背景に大統領に就任することになり、彼は連邦海軍に平和維持軍としての役割を与えるため、前線からの撤退を命令、より防衛的な位置へと後退させました。 また、カルダリプライムを除いたカルダリ主権領域から全軍を撤退させ、それらによりガレンテ連邦宙域からカルダリ連合海軍を押し出しました。 CEPは交渉に前向きだったものの、連邦上院議会は和平案に反対し、最終的にエラボン大統領はYC6年に退任し、翌年、亡くなりましたが、彼は平和維持活動家、人道主義者としての遺産を遺したのです。」
「毎年年末になるとヨイウル祭と呼ばれる祭りで年越しを祝ってはいましたが… まさかヨイウルという言葉がジョヴ帝国から来ていたとは。 これもまた初耳ですな…」
「まぁ、そうですわね。 私もこれらの文献を調べるまでは知りませんでしたわ。 一部ではユール、とも呼ばれているそうですが、まぁ、こればかりは言語翻訳の壁ですわね。 ええと…それから、YC12年、CONCORDが平和維持軍としての権限をテストすることを決断し、カルダリ連合、ガレンテ連邦両国の戦争がニューエデンの外交的、経済的発展を阻害するものとして介入を決定しました。 この時点で既に両国の戦争は稀に国境で小競り合いをするのみであり、どちらも領土を主張したり、戦争をエスカレートさせるようなことは最早していませんでした。 CONCORDの仲介もあり、両国は国境のティエリイェブシステムで交渉のテーブルにつき、6ヵ月、実に半年にも及ぶ和平交渉の末、ついに決着がついたのです。 この交渉の結果、ガレンテ連邦はカルダリ連合を主権国家として承認することに同意し、カルダリプライムを除くすべての領有権主張もそのまま認めたのです。 交渉の争点であったカルダリプライムについても、CEPは最終的に、戦争を終結させ、ガレンテとの貿易を再開することが故郷の返還よりもカルダリ連合の利益になると考え、連邦への割譲を決意したのです。 もちろん、これは多くのカルダリ愛国者を憤慨させましたが、彼らにはそれを実現するだけの後ろ盾もなかったのです。」

…喋り過ぎた。
いや、本当に。

そろそろ切り上げて話を本題に戻した方がよさそうだな…

「まぁ、そんなわけで長々と喋ってきましたけども… これが、あの演説の背景にある長い歴史ですわ。 途中、アマーやミンマターの話にも脱線しましたけれどもね。」
「いやはやこれは… 知らずにいた内容も多く、かなり学びになりますな。 しかし、軽い気持ちで聞いた内容が、まさかこんなにも深い歴史と関わっていたとは。」
「ニューエデンの歴史は私達が思う以上に複雑で、とても深いものですわ、ミスター。 だからこそ、私はそれらの文献を調査、精査し、こうやって我々が操る言語へとしたため直しているのです。」
「その崇高な理念にはまさに、素直に平伏といった思いですな、シオンハート女史。 …さて、聞いておいた側から言い出すのも何かではありますが、まだ元の話には続きが大いにあるのでしょう。 まだまだ興味があります故、お話していただけると嬉しい。」
「もちろん、私もそのつもりでしたわ、ミスター。 では次は… サラキ議長の演説から少々の時間を置いたYC124年、6月半ばの出来事ですわ…」

 

 

 

※当記事は橘 雪(たちばな ゆき)/El Shionheart氏による寄稿記事になります。

 

ありがとうございました!!

1万1000字をオーバーする大作ですが、まだまだ続くようです。

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