創作

【オリジナル小説】『数は世界(バベル)を支配する』1-5【数学×能力バトル】

第1章-5 スナイパー、スーリ

スーリは範囲数式の範囲が最長、二キロメートルほどと極めて長く、広い。特異体質といっていいだろう。トモカズの全力でも半径五〇〇メートル。これは、独立傭兵の基準でも極めて優れた数値であることから、いかにスーリが異常値なのかがわかるはずだ。
スーリは、約二キロ伸ばせる範囲数式を、自身の広域動体レーダーとして使用している。
さすがに、二キロ先から無限小といった即死の技を出せたりはしなかった。範囲の代わりに密度、及ぼす効力は小さいのである。
スーリは自身の範囲数式を、物体運動の予測演算装置として利用していた。
範囲数式に触れた全ての物質は手に取るように把握でき、運動物なら未来位置までもを高精度で予測できるのだ。
また、同じく数式により自身にかかる重量・ベクトルを操作し、事実上軽量化した対物ライフルを構えている。
ベクトル操作による軽量化、脚力の疑似的な強化を使えば、ビル間の跳躍、移動はスーリにとっては平易だった。狙撃ポジション等を細かく調整できるし、部下の暗殺部隊を入れれば、壁越しからでも弾丸を叩き込める。
ライフルに装填された二〇ミリ口径弾は、小さな砲弾並みの威力を持つ。対人用としてはかなり高級な弾丸だ。
最新鋭のベクトル弾頭で、大口径の演算力の高さを存分に発揮している。発射された時点で方向を自在に変え、着弾までの軌道は複雑、最終着弾地点が推測され辛い。
さらに着弾時、相手の範囲数式による逆演算を突破するためにも、瞬間的な高速演算を発動できる。

(二〇ミリクラスのライフル弾。軌道は複雑だが、最終着弾地点を予想することに意味はない。
完全に俺を狙っているわけで、ある意味わかりやすい。
問題は……!!)
街のビルの隙間を縫(ぬ)って、追加のライフル弾頭が着弾する。蛇のように曲がる蛇腹軌道の弾頭。
トモカズの掲げた手、その手前に見えない壁が生まれる。
範囲数式、発動。
スーリの放ったライフル弾はさらに軌道が逸れて、街路樹を粉砕。弾丸が余らせた運動エネルギーはさらに、電柱を粉砕し、ようやく弾丸は止まった。
着弾による土煙が立ちこめる中、トモカズはそのまま片手を突き出した態勢で立っていた。
トモカズは範囲数式の範囲を自身の周囲に絞ってベクトルを注入することで、砲撃を逸らしたのだ。逆に言えば、範囲数式を絞らなければ、このベクトル範囲数式は突破されていたことだろう。
スーリは冷徹に計算中だ。
「OK。あいつのベクトル式は、半分くらいは読めたわ。
推測通りに次弾、レディ。
お前ら、追い詰めていけよ」
暗殺部隊も、その名前通りの仕事を果たすべく、作戦行動中だ。

そう簡単に携帯で連絡はさせないつもりらしかった。トモカズも考えるが、沈思黙考と戦闘用の思考の間で脳と心が揺れる。
トモカズの周辺が、大きく削られ、えぐり取られていく。
遅れて、破裂するような騒々しい音。
「ふん、『PS(ピーエス)』か」
身体・数式能力、そして戦闘能力を格段に引き上げる特殊兵装、PS。シンプルに『パワードスーツ』の略だ。
鋼色の巨体がトモカズを取り囲むように索敵、移動、攻撃を実行している。トモカズが感知できる数百メートル圏内だけで五機以上一〇機未満。
「これは、久々に本気を出さないと死ぬか」
トモカズはベクトルの範囲数式を展開、さらにその内側には無限小の範囲数式を展開させる。
脳神経系の負荷が大きいため、長くは持たない緊急手段であった。
身動きを止めたトモカズに、容赦なく二〇ミリガトリング・ベクトル砲弾が襲いかかるが、トモカズの手前で跳ねるか、極小となって消え、そして足元に金属塊となって落ちていく。
範囲数式の結界に守られたトモカズは、携帯電話を作動させる。
「俺だ、トモカズだ。
緊急事態。外部勢力からの襲撃を受けている。応援をできるだけ多く、早く寄越せ」
それだけ、他の独立傭兵に連絡を回して、すぐに切る。
「俺の好きな街を、壊さないでくれるかな」
至近距離まで近づき、ガトリング砲による掃射を重ねるPSが、トモカズの左手の回転式拳銃(リボルバー)から放たれた特殊弾頭によって、鉄塊に強制変換させられる。
金属、血液、オイル。それらが至近距離で爆発し、飛び散る。
「殺すぞ」

「殺してから言うなよ」
二キロ近く先で伏せたままの、狙撃態勢のスーリがそう零(こぼ)した。
構えた得物(えもの)、対物ライフルを発砲。覗かれたスコープは、トモカズを捉えたまま、微塵も動かない。極限まで、反動が抑制されているのだ。
トモカズの範囲数式に着弾。
弾頭の一時消滅を確認。復元が発生。ベクトルの九九%以上が消失。自由落下するのみ。
スーリは手動で排莢をし終え、次弾の装填をボルトをスライドさせて行う。
「……まだ無限小を展開してる。演算力のあるやつだ。
駒の残りは九か。私を入れて一〇。
失敗すれば、手間だな」
スーリは北京軍と関わりの深い黒社会の大組織、その大幹部だった。
元より高いIQと数力を持っていたが、この年齢でこれだけの地位に就けたのは、組織のトップの女の好みとスーリが一致していたから、というのが大きい。
自身の数式力やそれを活かすための鍛錬・適応力にずば抜けた自身を持つ彼女からしてみれば、大変な侮辱だった。
「上手く行かなければ、ファーザーに呼び戻されちまう……」
だが、今回の襲撃作戦は早くも失敗に終わりそうだった。
撤退を示す間もなく、トモカズは素早くPSを無限小とやらで鉄塊に変換していっている。
さらに、スーリの範囲数式に、他の運動物体が感知される。
「増援か。クソッ。
役立たずめ」
トモカズを取り囲んでいた、撹乱(かくらん)用のPS部隊は全滅。
密輸代も含め、そう安くはない損害だ。
自身の対物ライフルにブービートラップを仕掛け、スーリはビルからその場を後にする。
降下し、重力に手を加えて高速落下、最後に大きく減速。
単なる可愛い女の子として、現場から一旦退却することとなった。
「トモカズ、お前は私が仕留める……!!」

「素早く、皆殺しか。
トモカズ。
お前は相変わらず、とんでもねえな」
口元の白い棒から、白い煙を燻(くゆ)らせながら、トモカズとは友人に近い関係の独立傭兵がそう言った。
対するトモカズは、こともなげに返答する。
「相手の目的は、俺への狙撃を通すことだったのだろう。指揮官だったのか知らないが、PS部隊を排除したら発砲が止んだ」
「……OK、狙撃手の痕跡(こんせき)か何かを探すか」
「捜索ごとは警察に任せるか、軍でもいいが。
俺たちは、罠に嵌めたつもりの馬鹿どもを狩ればいい」
……幸い、警察の手際は良かった。ブービートラップを解除した上で、対物ライフルの確保が出来たそうだ。マガジン型の超小型核爆弾だったとのこと。
もし爆発していれば、屋上から数階ぶんは消滅していただろうし、放射能汚染の可能性もある。いよいよ、なりふり構わなくなってきたらしいことは伺えた。
ライフルの残弾はなかったが、薬莢や高性能スコープが現場に残っていたので、解析をするとのこと。
もっとも、事態はそれどころではないくらい、激しく動き始めるのだが……。

あとがき:小話とか

どうも、書い人(かいと)です。

第1章はこれにて完結です!!

あんまり数学、数学していないな……

カクヨムにも載せていますので、見やすいほうを選んでくださいね^^

初期設定のスーリは、ライフル使いではなく拳で『数エネルギー』(←世界一胡乱な用語)を圧縮して打ち抜く動作からの遠距離、引き撃ちで複雑なベクトルのエネルギーを炸裂させる、といった戦法の使い手、でした。

重さなども数式で変化させられるなら、何も問題なく大型銃が使えるよね、となって(持ち込み方法はさておき。まあ、今回全滅した別働隊に運ばせて、作戦のごく手前で展開して狙撃していったのでしょう)こういった展開に。

思ったよりも戦闘シーンがあっけなかったので、戦いを大規模にしたいところです。

今後は粘着質に主人公にまとわりつく……? のかあっさり……、なのかは良くわかりませんが、まあ少しでも楽しんで書き、楽しんでもらいたいものですね!!

まあ、数バベを含め、いろいろと書いていく予定です^^

ありがとうございました!!

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